トランプ類税シールを用いたデックの製造年特定法
投稿者 :和泉圭佑 on
こんにちは、和泉です。
かつてデックには「トランプ類税シール」 と呼ばれる証紙が貼られていました。日本では骨牌税と呼ばれ、デックを含む麻雀牌や花札といったギャンブル性の強いものに税金がかかっていました。1989年に消費税が導入され、以後トランプ類税シールを見ることはなくなりました。
アメリカでは1965年までこのトランプ類税シールは使用されており、実はデックの年代特定にかなり役立ちます。消印が日本ようなコードではなく西暦が用いられたからです。つまりその消印を見れば、1965年以前であればいつ頃のデックなのかが特定できる、というわけです。
しかし「その消印が必ずそのデックの製造年である」とは言い切れない場合があります。理由はふたつあります。
ひとつは、消印の日付とデック自体の製造年にはズレがある場合です。連日何万という数のデックを生産するのであれば、当然トランプ類税シールは事前にまとめて取っておくでしょう(詳しくは「BICYCLEケースに隠された生産年の印字」をどうぞ。)
もうひとつは、ケースと中身のデックが前の所有者によって入れ替えられている場合です。USPC社のデックは100年前ですら高品質なのですが、ケースはあまり紙質が良く無くてすぐボロボロになります。一般的に大事なのは遊びに使うのはトランプそのもので、ケースは何でも良いと考えるのが普通でしょう。実際に、外身のケースと中身のデックが全く異なるビンテージデックはオークションなどで散見されます。
なので、そういう意味ではこのトランプ類税シールの消印を用いたデックの製造年特定というのはあまり信憑性がある特定法ではないと言えるでしょう。まあそればかりは仕方ありません。しかしある程度の参考にはなります。
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一番最初にデックが課税されたのは1862年の歳入法(Revenue Act)からになります。USPC社をベースに話を進めていきますので、1881年より見ていきましょう。
1881年〜1883年:RU 16
当時、トランプ類税シールは製造業者によって独自にデザインすることができたらしく、様々なデザインが残っています。USPC社は元々Russell Morgan & Companyという名前でしたが、最初に発売したTiger 101にちなんだであろう虎がデザインされています。
Bicycle 808が最初にリリースされたのは1885年なので、Bicycleデックにこのトランプ類税シールが使われることはありませんでした。後に出た復刻版にはこのデザインのレプリカが使用されておりましたが...。
ちなみにRUというのはScottというアメリカ切手一覧に載っている通し番号で、これは16番目になります。
1883年〜1894年:課税無し
この時期はトランプに課税がされておりませんでした。当時のデックはどんな感じで販売されていたんでしょうね...。
1894年〜1917年:2 Cents
左上にU.S.、右上にI.R.、下にTwo Centsと書かれ、アラビア数字で2と大きく書かれています。その2の周りにOn Hand Aug 1894(左)、Act of Aug 1894(右)と書かれてあります。
初期のものは消印が手書き(左)になっていて、その後消印はスタンプ(右)になりました。以後消印はすべてスタンプになります。
ちなみにこの頃のトランプ類税シールはデックのかなり端に貼られています。
1917年〜1919年:7 Cents、Class A
税率が2セントから7セントに変わりますが、ご覧の通り2セントのデザインがそのまま使われております。後期になると次のClass Aの「縦長バージョン」が使われるようになります。
消印は「10 4 1917」「7 CENTS」「U.S.P.C.Co.」とある通り、生産工場と西暦と日付がスタンプされています。「7」が大きく印字された消印も多く存在しています。この時期はTwo Centsと縦長Class Aの2種類のデザインが存在し、どちらも7 Centsとスタンプされています。
1919年〜1924年:8 Cents、Class A
税率が7セントから8セントに上がりました。デザインは2つあり、2 Centsのシールに8 Centsと消印がされたものと、上の写真のように「Class A」と書かれたものです。上にUSIR、真ん中にCLASS Aと書かれています。ちなみにClass Aの縦長デザインは7セントにしか存在しないようなので、この時期のものではありません。
消印は「8.1.1922」「U.S.P.C.Co.」とスタンプされています。おそらく1922年8月1日だと思われます。
1924年〜1929年:10 Cents(四角)
税率はうなぎのぼり、当時のトランプの需要が伺えます。後期になるとようやく消印に日付が消えて、製造年と製造業者名のみになります。あと切手らしさが戻っています。
消印は「G.P.C.Co.」だと思うのですが、どこなのでしょうか?略称の有名所はこんな感じです。
A.P.C.Co.:Arrco Playing Card社
B&B:Brown & Bigelow
N.Y.C.C.Co.:New York Consolidated Card社
C.D.C.Co.:Consolidated Dougherty Card社
U.S.P.C.Co.:U.S. Playing Card社
1929年〜1940年:10 Cents(縦長)
10セントの税率はそのままでデザインが変更されます。またUSPC社は独特な消印を使っています。こういうのが使えたのでしょうか?しかし今まで通り普通の消印も存在するので、よくわかりません。
1940年〜1965年:One Pack
どんどん税率は上がり1940年に11セント、1941年に13セントと変わっていくのですが、それを見越してか「1 Pack(一組)」と書かれたデザインが採用されました。四角と縦長の2種類あり、一番ポピュラーなトランプ類税シールで、どちらも25年間もの間使用されました。
ちなみに1 Packと書かれたところがちょうどデックケースのフラップの境目になることが多く、雑に開けるとOne Packなのか10 Centsなのか見分けがつかなくなります。実は10 Centsと数字以外はデザインが同じなので、デックコレクターを悩ましてくれます。
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いかがでしたでしょうか?トランプ類税シールは「RF」と呼ばれ、とても細かく細分化されているので色々探してみると面白いかもしれません。
ところでこのトランプ類税シール、1965年以前となると今から半世紀以上前となりますので、どうしても前の所有者が雑に扱っていたり、糊が経年劣化で乾燥して剥がれたりする場合があります。また紙質もそこまで良くはないので、簡単に破れてしまいます。1960年頃からUSPC社はデックに外装フィルムを採用しますが、それまでデックは裸だったので、状態が良いものを見つけたらラッキーです。
ちなみにデックコレクターの間でこの「トランプ類税シール」に決まった呼び名はありません。筆者は「類税シール」と変な略し方をして呼んでいますが...。海外ではrevenue stamp、tax stampと呼ばれるのが一番メジャーかと思われます。
皆様のお役に立てればと思います〜。
参考:
The Hochman Encyclopedia of American Playing Cards(Tom and Judy Dawson、2000)