「マジック解説書の歴史」について解説された冊子の謎

「マジック解説書の歴史」について解説された冊子の謎

こんにちは、和泉です。

マジックにはレクチャーノートと呼ばれる解説書があります。中を見てみるとマジックの種や仕掛けが書かれており、そこでマジックの秘密を学ぶことができます。今となってはお手頃価格で手軽に映像を見て学ぶことができますが、昔はビデオも高かったですし(1990年のカタログを見ると、30分で2万円とかします!高ッ!!)ビデオが無かった時代は活字を見て人々はマジックを学んでいたのです。しかし活字で動きは分かりづらかったので、多くの人は講習会に参加してマジックを学んでいたそうです。

マジック好きにとって大事な解説書は今でも根強い人気があるのですが、そのルーツがどこにあるのか、意外と知られていません。

「『妖術の開示』なんていう本が最初でしょ?」みたいな話は聞いたことがあるかもしれません。でもその後はどうなっているのでしょう?意外とパッと思いつかないかもしれません。

▲初版は禁書になったので非常に貴重。この1651年版ですら約120万円で落札されています。ひえぇ~
https://thehotbid.com/2021/02/09/a-1651-copy-of-the-discovery-of-magic-by-reginald-scot-could-fetch-12000/

そんな解説書のルーツを紹介してある小冊子があります。『草創期<一五八四~一八八六>の西洋クロースアップ・マジック小史』(以下草創期)です。研究家であるスティーブン・ミンチ氏が執筆したものの和訳で、令和の今ですら「唯一」といっても過言ではない日本語で読める一冊です。わずか16ページで非常に薄い本なのですが、『妖術の開示』から西洋マジックがどのように解説されてきたのかがよくわかります。

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ところが、『草創期』には謎があります。本文で紹介されていない本の挿絵が載っているのです。9ページに「ディーンの"Hocus Pocus, or the Whole Art of Legerdemain"より」と書かれたテロップと共にカップアンドボールの図板が載っているのですが、肝心のディーンについて本文が書かれていません。

▲載ってるのに、本文での紹介は無し。謎!

適当な図板を引っ張ってきたのかもしれませんが、しかしミンチ氏が載せるからにはちゃんと本文で紹介しているでしょうし(ちゃんとしているはずですから)何より、調べる側からすれば「Hocus Pocus」と名の付いたイギリスの本はたくさんあるので、ちょびっと紛らわしいのですね。しかもこの図板は「White's Hocus Pocus」のページで使われているので、尚更なわけです。

『草創期』は和訳された小冊子なので、原著を見ると謎がとけるかもしれません。

ということで、1ページ目に載っている原題「A Short History of Early Western Close-Up Magic (1584-1886) Stephen Minch」を調べてみたら…この名前の本が存在しません。似たようなものはあるのですが、同じタイトルのものは見つかりませんでした。

マジックランドのロゴが載っているので、さっそく小野坂東氏に伺ってみました。

色々と記憶と資料を辿って頂いたところ、1990年にマジックランドが主催した「インターナショナル・フレンドシップ・コンベンション」にてお招きした際、ミンチ氏が持ってきた原稿を和訳したものだとわかりました。小冊子には奥付が無いので刊行年は不明でしたが、これで1990年ということがわかりました。

ミンチ氏は、翌年の1991年に『From Witchcraft to Card Tricks: Notes Toward an History of Western Close-up Magic (1584-1897)』という小冊子を刊行されています。時系列で考えれば、ミンチ氏の原稿がマジックランドで和訳され、補完されたものが翌年英語で販売された、ということでしょう。

現に、1990年の『草創期』が19ページなのに対し、1991年の『From Witchcraft to Card Tricks』は29ページとかなり増量していますし、抜けていたディーンの話も載っているだけでなく『The Conjuror's Repository』『The Secret Out』『More Magic』といった多くの重要な解説書が補完されています。

余談ですが、FISM2018韓国大会で参加者のド肝を抜いたのはAvner師の演技だと思うのですが、このフレンドシップ・コンベンションで来日されたことがあったのですね。全然知りませんでした。そりゃあれだけ素晴らしい演者さんであれば誰か呼んでるよね、とFISM2018から4年経って気づきました。

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明治よりマジック解説書の和訳は「抜粋」的なものが多く、一冊を丸々と訳し始めるのはかなり後になります。

『草創期』もはじめは「抜粋」か「訳し抜け」なのかと思いきや、実はミンチ氏による貴重な初期原稿だったかもしれないということです。後の『From Witchcraft to Card Tricks』のほうが内容は充実しているわけですが、英語わからないと読めません。

『草創期』は大切な一冊であることは間違いありません。西洋におけるマジック解説書のルーツが日本語で読めることは非常に貴重だと思います。

ところで、なぜぼくが『草創期』に気づいたかというと、阿部徳蔵『とらんぷ』の中で紹介されている「ライジング・カード」の説明が誤っており、ディーンの『Hocus Pocus』を確認する必要があったからです。調べると色々と面白いことあるもんですねぇ~

ちなみにマジックランドで売っています。超破格。補完版『From Witchcraft to Card Tricks』は多分どこかで売ってると思います!多分!

http://www.magicland.jp/shop/book/close-up/product-237/?sl=ja

 

Bibliography

Anno. (1635) Hocvs Pocvs Ivnior. The Anatomie of Legerdemain, T. H. for R. M.

Dean, Henry (1722) Hocus Pocus, or The whole art of Legerdemain, Mathew Carey

Minch, Stephen (1991) From Witchcraft to Card Tricks: Notes Toward an History of Western Close-up Magic (1584-1897), Hermetic Press(『西洋クロースアップ小史』の原稿が元になっている)

Scot, Reginald (1584) The discoverie of witchcraft(邦題『妖術の開示』)

阿部徳蔵『とらんぷ』第一書房、1938年

雑誌『ザ・マジック 4』東京堂出版、1990年

スティーブン・ミンチ『草創期<一五八四~一八八六>の西洋クロースアップ・マジック小史』長谷和幸:訳、マジックランド、1990年

マジックネットワーク7『小野坂東氏の業績研究』マジックネットワーク7、2019年

 

Notes

・「昔は本ではなく講習会で習っていた」という話は、Japan Cup 2019の打ち上げにてスピリット百瀬師より伺った。

・1990年の解説映像(レクチャービデオ)の値段は東京堂出版『ザ・マジック』にて確認。

 

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